経緯

2007年(平成19年)11月、高井田苑職員による利用者への暴力行為を施設関係者が大阪府に通報し、府の立ち入り調査が行われました。
許されることのない人権侵害行為が施設内で生じていたことは事実であり、当法人は関係各所の調査に全面的に協力しました。問題行為発生時の理事(評議員を兼任)と監事は全員辞任し、役員体制も一新して、深い反省のもと背景要因の究明と再発防止策に取り組みました。
以来、すべての職員が徹底した人権意識を持って人権擁護に必要な知識と支援方法を身に付けて業務に当たることができるよう、法人として日々努力しています。

人権侵害事案発生要因

調査の結果、背景には知的障がいの専門的知識と支援技術の未熟さ、人権意識の希薄さ、閉鎖的組織状況、自浄機能の欠落がありました。
1999年(平成11年)の高井田苑開所当初、新卒の職員が大半で知的障がい者の支援経験が乏しく、利用者の行動に戸惑い、対応方法が分からずに右往左往していました。問題行動に対して短絡的に力で抑え込む対応が取られ、適切な指導も欠如した中で、継承されていったと考えられます。
日課は集団行動が基本になっており、人ごみや騒音、集団での行動が苦手な利用者も、集団行動に従わせる方針となっていました。倫理綱領も人権研修も、その状況を変えるほどの効果はありませんでした。
歴史ある児童養護部門の職員と交流・意見交換する機会はなく、理事会も事実を把握せず、苦情解決システムや第三者委員会も形骸化していました。閉鎖的な環境の中で、疑問を持つ職員も言い出すことができず、自浄機能は働きませんでした。

これらの要因を払しょくするため、以下のような取り組みを行いました。うまくいった点もあれば、いかなかった点もあります。私たちは、過ちを忘れることなく、これからもふりかえりと改善を続けていきます。

組織体制と業務手順の見直し

ガバナンスの刷新

役員体制を一新するとともに、全施設を統括する総合施設長を置き、「法人連絡会」を設置して、法人内施設の連携を密にしました。法人連絡会には、理事長と、各施設の施設長から副主任までが参加して、情報共有と課題の検討を行っています。
苦情解決システムはより機能するよう見直し、第三者委員には外部から大学教授などの人材を起用しました。
それまで「口伝え」で行ってきた業務手順は、マニュアル化しました。いつ、誰が行っても同じ支援、同じ事務業務が行えるようにしています。

人権擁護意識の徹底

利用者の尊厳を大切にした支援を行うための研修を行いました。1年目は年間研修テーマを「障がい者の権利擁護」として、月2回外部講師による実践的な研修としました。
倫理綱領は見直して、支援員室・廊下などに掲示。常に職員の目に触れるようにしました。さらに、具体的支援のよりどころとして、職員行動指針を新たに定めました。

ケース会議の充実

ケース会議は、検討課題が明確になるよう事前に担当者が統一用紙にまとめて、出席者が把握してから参加するようにしました。会議では、行動観察記録・指示理解チェックリストなどの客観的な資料をもとに、具体的で実行可能な支援内容を決めています。

個別支援計画の策定と実施

簡単な形式で作成しており実際の支援に生かしきれていなかった個別支援計画を、専門機関の助言・指導のもとで見直しました。見直しに当たっては、適切なアセスメント・支援の検討・計画作成についての研修を行うとともに、「個別支援計画作成マニュアル」を作成しました。
また、利用者には希望調査を行い、個々の利用者の得意なところと苦手なところを明確にして、細かく評価しました。計画作成の際は、各利用者や家族のニーズに、特に重きを置くようにしました。
客観的な評価に基づき、個々の利用者に合わせた個別の支援計画を作成することを心がけています。

強度行動障がいを併せもつ利用者への対応

激しい奇声・他害・自傷・物壊し・強いこだわり行動による生活の乱れ等、強度行動障がいといわれる問題行動を起こす利用者への対応が、最も大きな課題でした。

行動観察記録

経験に基づく「きっとこうだろう」から、客観的な支援(ある程度のデータから導き出されたもの)に変えるべく、問題行動の行動チェック表を作成して行動を評価しました。利用者の生活動線分析も行い、それぞれの生活動線が重なることで生じている問題がないか検討しました。
それらをもとに、利用者が負担なく移動できる動線確保、こだわりの軽減、落ち着ける空間の確保、余暇充実を図る改善策に取り組みました。

スケジュールを視覚的に提示

利用者との意思疎通は、今までは「言い聞かせる」方法に頼っていましたが、写真・文字の理解が可能な利用者には写真・筆談を取り入れました。
日課についても、イラストや写真を使った視覚的に分かりやすいスケジュールを作成し、終わった日課を外していくようにしました。必要に応じて、個人のスケジュールやカレンダーを使った「予告」も行うようにしました。

個人を重視した予定・外出等の企画

帰省の日程が分からず不安定になっている利用者に対して、平日と土日の違いが分かるように、1週間の日課を繰り返すことを基本にしました。
帰省の少ない利用者や外出の支援が必要な利用者には、個人のニーズに合わせて外出予定を組むようにしました。

日課の運営方法の変更

「集団行動」を廃して、全ての日課についてできる限り個別に動けるよう見直しました。特に、強度行動障がいを併せもち他者への攻撃が目立つ利用者については、日課の中心に「散歩」を置き、その中でも個別の対応ができるように工夫を重ねました。
作業については核となる職員をそれぞれの作業班に配置し、利用者の状態の把握に努めました。
さらに、定期的な「作業会議」を行い、利用者の現状に合わせた作業が提供できるよう班編成を含めて話し合っています。

環境整備

可能な限り、生活環境の個別化を図りました。
他害行動の多い利用者は、空いている居室を使った個室利用に変えました。女性フロアは、希望に応じて居室を半分に区切り、パーソナルスペースを確保しました。どうしてもスペースが確保できない利用者のため、カームダウンエリアとして小さな部屋を設け、興奮時などにはそこに誘導し、落ち着けるように促すようにしました。
最もトラブルが多かった食堂については、必要な範囲の仕切りを設けたり、時間差で食事をするなどで盗食・他害などを防ぐようにしました。

家族会との連携の強化

家族に向けて「苦情解決システム」について説明し、活用を促しています。家族会の場には職員が参加して、家族の苦情や意見を拾える機会を持つようにしています。
苦情・意見・指摘・疑問については、大きな問題になる前に対応し、必要な情報開示をして、透明性の確保に努めています。